地面反力の数値から見て取れる、プロゴルファーのスイング中の体の動き

ゴルフ インパクト テークバック

男子トーナメントプロ4名、女子トーナメントプロ4名、計8名を被験者としたスイングの研究結果をまとめた論文が公開されているので紹介します。タイトルは「地面反力から見たゴルフスイングの特徴」。

これは、フォースプレートを使ってゴルフスイングを計測し、そこで出た値とスイング中の動作との関係性を明らかにしたものです。

トーナメントプロ8名のスイング中の地面反力(Ground Reaction Forces、『GRF』)や、その足圧中心ベクトルの向き、足圧中心(Center Of Pressure、『COP』)の特徴を知り、それらから見て取れるトーナメントプロならではの動きを把握することは、多くの一般ゴルファーにとって有益なものになるでしょう。

地面反力とは

「地面反力」とは、足で地面を踏んだときに返ってくる力のことで、「床反力」ともよばれています。足の踏み込む力を効果的に使うとボディーターンが速くなります。

ダウンスウィング初期に地面をグッと踏み、それが跳ね返るエネルギーを回転に変えて飛ばすというのが、地面反力を利用したスウィングの基本的考え方です。

また、地面反力は、テークバックやバックスイングでも使われます。ダウンスイングをスムーズに行うためには、テークバックやバックスイングでの地面反力に関する理解も重要なポイントになります。

論文「地面反力から見たゴルフスイングの特徴」

地面反力から見たゴルフスイングの特徴(野澤むつこ・吉田康行・丸山剛生)
目次
  1. 緒言
  2. 実験方法
  3. 結果
    1.腰の角速度と左手の合成速度
    2.COPの変位
    3.左右の鉛直方向のGRFの傾向
    4.GRFベクトルの傾向
  4. 考察
  5. 結言

1.緒言
ゴルフスイングは、バックスイング、ダウンスイング、インパクトを短い時間内で終了させる動作である。その短い時間内における下肢の運動はパワーを生み出し(Hume,et al.2005)、脚の力発揮が複雑な動作のタイミングや姿勢に影響を与えている(Barrentine,et al.1994)。

「地面反力から見たゴルフスイングの特徴」の解説

実験方法

フォースプレートが設置された室内で、ドライバーショット時の測定が行われました。また、被験者のスイング動作は、全身に42個所、クラブに5個所、マーカーを貼り付け、モーションキャプチャシステムを使って測定しました。

スイング中の測定する局面はアドレスからインパクトまでで、(右打ちの場合)腰が右回転から左回転に切り替わる変化点(以下、腰回転の変化点『Turn in the direction:TD』)もポイントとして分析しました。

結果

腰の回転速度とグリップの速度

腰の角速度は、TD後-0.1sec付近でピークを迎え、

「腰回転変化点後-0.1秒付近」というのはインパクトの-0.1秒付近。腰の速度はインパクト前に最速になっていたことがわかりました。また、左手(グリップ)の速度のピークもTD後-0.1秒付近で、インパクト前にグリップスピードが最大になっていることもわかりました。

以下がそれを表した図です。

ゴルフスイングの地面反力
アドレスからインパクトまでの左手の速度

足圧中心の変位

左足の足圧中心はアドレスから前方へ移動し、腰回転の変化点で最も前方に足圧中心が位置し、その後、インパクトにかけて、足圧中心が-9.3±5.5cm後方へ移動し、ほぼアドレスと同じ位置でインパクトを迎えています。

右足の足圧中心はアドレスから腰回転の変化点にかけて大きな変化は見られないものの、足中心より前方に足圧中心は位置していました。腰回転の変化点以降の足圧中心は、前方への移動が顕著に見られ、その後インパクト直前に飛球方向へ大きく移動させる傾向が見られました。

以下がそれを表した図です。

ゴルフスイングの地面反力の調査結果
アドレスからインパクトまでの足圧中心の座標

左足と右足の鉛直方向の地面反力の傾向

左足と右足の地面反力の合成値はインパクト直前で最大になりました。また、被験者8名中5名は左に加重している状態でアドレスしており、全体として左足の地面反力が大きい状態でアドレスしていました。

左足と右足を比較すると、アドレスから腰回転の変化点に向けて右足の地面反力は増加しているのに対し、左足の地面反力は減少する傾向が示されました。腰回転の変化点での地面反力は、右足が左足の約4.7倍という測定結果になりました。

腰回転の変化点からインパクトに向けての地面反力は、左足が増加し、右足が減少する傾向が示されました。インパクトでの地面反力は、左足が右足の約4.3倍という結果になりました。また、左足は腰回転の変化点からインパクトまでに約81%の地面反力の上昇が見られました。

ゴルフスイングの地面反力の調査結果
アドレスからインパクトまでの垂直地面反力

地面反力ベクトルの傾向

次に左足と右足それぞれの地面反力ベクトルの傾向についてです。地面反力ベクトルとは、地面反力が働いている方向のことです。例えば真上にジャンプすれば、地面反力ベクトルは90°となります。

その地面反力ベクトルを前額面(身体を前部と後部に分ける垂直平面・身体を正面から見た状態)と矢状面(身体を左右の半分に分ける垂直平面・身体を側面から見た状態)に分けて考えます。

前額面における、垂直方向よりも飛球方向側が90°より小さいとし、飛球線方向と逆側が90°より大きいとします。また、矢状面における、垂直方向よりもつま先側方が90°より小さいとし、かかと方向が90°より大きいとします。下の図のイラストでご確認ください。

前額面における地面反力ベクトルは、アドレスから腰回転の変化点までの間、右足は90°であるのに対して、左足は90°以上でした。左足の地面反力ベクトルが飛球方向と逆方向に傾いていたということです。

腰回転の変化点で、左足と右足の地面反力ベクトルの角度が入れ替わりました。インパクトの前の時点で左足のベクトルの角度が小さくなり、右足のベクトルの角度が大きくなりました。

矢状面における地面反力ベクトルは、アドレスから腰回転の変化点の直前まで、左右に約10°の差が見られました。左足のベクトルは90°を超え、後方へ傾いていました。

腰回転の変化点を過ぎてからのベクトルの傾きは、右足は前方へ、左足は後方へと大きく変化しました。

ちなみに、腰回転の変化点と、インパクトは左右同じ様な傾きとなりました。

ゴルフスイングの地面反力の調査結果
アドレスからインパクトまでの力ベクトルの傾向

考察

バックスイング中の右脚は軸足となるような足圧中心の変化と、地面反力ベクトルが測定されました。バックスイング時は脚の動作と、地面反力ベクトルが同じ向きを示し、左右差が小さなものでした。

一方、ダウンスイングでは、腰回転の変化点直後の地面反力ベクトルに左右差が見られました。

これは、飛球方向への回転運動と並進運動を促進するために、左脚が飛球方向へ踏み込み、右脚が身体のバランスを保つ力を発揮していたと考えられます。

結言

1)足圧中心は、足の中心より前方で移動していました。その移動傾向としては、右足は腰回転の変化点までの変化は少なく、腰回転の変化点以降、前方へ大きく移動していました。

左足は前方と後方への移動が顕著に表れました。

2)鉛直方向の地面反力は、腰回転の変化点時点で右足が左足を上回り、約4.6倍の力を出していました。インパクト時点では、左右の合計に対して、左足は約80%でした。

3)地面反力ベクトルについて。バックスイング時は左足と右足の差は小さいですが、ダウンスイング時は大きくなりました。全額面のインパクト時は、右の地面反力ベクトルに個人差が見られました。

左足に着目すると

この論文の内容を、左足だけに注目してまとめてみると、以下のような流れになります。

左足はアドレスからトップオブスイングにかけて、足圧中心がやや左足つま先側に移動しながら、地面反力が小さくなりました。右足への体重移動があった、ということです。

そして、切り返し以降、左足の足圧中心が土ふまずに移動しながら、かつ地面反力が大きくなってインパクトを迎えます。この時、左足の地面反力のベクトルはアドレス時とほぼ同じ、ということですから、体重移動をしながらも、飛球方向と逆方向に力を働かせていた、ということになります(「地面反力ベクトルの傾向」の節で、アドレスでは左足の地面反力ベクトルが飛球方向と逆方向に傾いていた、と解説しています)。

さらに、腕やクラブの大きな加速があることをふまえると、アドレス時よりも飛球方向と逆への傾きが大きいベクトルの地面反力をかけることで、アドレス時と同じ地面反力ベクトル、ということになります。

ダウンスイングやインパクトでは、腕やクラブの加速によって地面反力やそのベクトルは、飛球方向側に持っていかれるはずで、それらの力と戦わないことには、アドレス時と同じベクトル、という結果にはなりません。その力と戦うということは、飛球方向と逆への傾きを強めることになると考えられます。

左足の能動的なベクトルはアドレス時よりも、飛球方向と反対側に傾いているといえそうです。

また、その左足の飛球方向と逆方向への地面反力ベクトルが、腰や左手の速度がインパクト前に減速、という実験結果につながっています。