主観を抑え、研究結果をもとにして上達するために必要なものを示している、これまでにない新しいタイプの書籍の紹介です。「世界のスポーツ科学が証明する ゴルフ 新 上達法則」。ティーチングプロの鈴木タケルプロと東洋大学准教授の一川大輔氏が、国内外で発表された論文にこれまでの経験を絡めて、ゴルフやスイングのポイントについて解説している書籍です。
承知の通り、インターネットの普及は勢いを増しています。それに伴い情報過多がゴルファーを悩ませています。客観的で普遍的な事実と、発信者自身の主観や感覚論が混在した状態でゴルファーに届いてしまっている現実があります。
多くの研究機関やチームでは、様々な研究や実験をしています。その研究結果にはとても興味深いものが多くあります。こういった客観的な事実に発信者の経験を照らし合わせた情報は、机上の論理でもなく、主観に偏ったものでもなく、より整理されたものとしてゴルファーにとって有益なものになりやすいでしょう。
それがこの書籍です。是非、ここで紹介されている数々の考え方に触れてみて下さい。
鈴木 タケル 略歴
父親がパーシモンクラブの職人だったこともあり幼少時からゴルフに親しみ、ツアープロを目指す。30歳からティーチングの世界に進み、2010年ティーチングプロA級取得。左打ちを取り入れた上達法「スウィッチゴルフメソッド」を考案し10年PGAティーチングアワード奨励賞受賞。12年には指導者を教える専門指導員に就任。理論と指導力には定評がある。国際武道大学院ほか、研究機関でゴルフを研究。ドイツ・ライプチヒ大学への3度にわたる短期留学を経験し、同大学公認コオーディネーショントレーナー資格を取得。1976年生まれ。静岡県出身。
一川 大輔 略歴
東洋大学理工学部生体医工学科准教授。東洋大学スポーツ健康科学研究室(川越キャンパス)室長(http://kawa-pe.toyo-bme.jp/)。筑波大学大学院体育研究科修了(修士:体育学)、山梨大学大学院医学工学総合教育部修了(博士:医科学)。運動生理学、スポーツバイオメカニクスの専門研究者として活動。1976年生まれ。富山県出身。
世界のスポーツ科学が証明する ゴルフ 新 上達法則 内容
書籍の中で書かれていることをいくつか引用し、解説していきます。
体重移動について
上級者は、バックスイングの途中で右足への加重が最大となり、クラブがトップへと上がりつつあるタイミングで、すでに体重を左へと移し始める。このように体重移動は、スイング動作に先行して行われる。
現在は、東京国際大学で教授をしている奥田功氏が2010年に発表した「熟練者と低技能者の体幹回転と体重移動パターン」という論文をもとに体重移動について解説しています。
体重移動の適切なアクションの大きさや、タイミングについては試行錯誤したことがあるゴルファーは多いのではないでしょうか。ここでは実験によって得られた数値について、わかりやすく表も使いながら述べられています。
グリップ圧について
- レベルに関わらず、どのゴルファーもスイング中のグリップ力は右手よりも左手の方が上回っている。
- 上級者はダウンスイング中に一度グリップ力が抜けたような状態を作り出し、その後インパクトを迎える。
- 上級者はインパクト付近では右手のグリップ力をほとんど発揮していない。
「ゴルフスイングは左手リード」と言われていますが、「インパクトは右手で押す」といったことも言われたりします。そこで、2008年に発表された「ゴルフショット中のグリップ力測定と解析」という論文の内容をもとにグリップ圧について述べられています。
注目するべきは、主観云々は抜きにしたときに、左手のリードでスイングすることが正しいだろうということ。そして、上級者はグリップをガチガチに固定しているのではなく、グリップ圧が弱まるタイミングがあるということです。
ヘッドスピードを上げるために必要なフィジカルについて
ヘッドスピードと関係が深いのは①上下に動く力、②腕を振る力
捻転の力がそれほどヘッドスピードに貢献しているわけではないという事実は、ゴルフ界にもっと浸透してもいい情報だと思います。
飛距離アップは多くのゴルファーが願っているものでしょう。飛距離アップのためには、スピン量や打ち出し角などを適正にするテクニックの部分と、主にフィジカルの強さが影響するフィジカルの部分に分けられます。
そのフィジカルについては、まだ「回転」「捻転」というキーワードがフォーカスされる風潮にあります。しかし、2006年に発表された論文によって明らかになったのは、捻転よりも上下の力、スクワット動作により生まれる力の方がヘッドスピードには大きく影響しているということ。ここ数年、着目されている「床反力」というやつですね。
レベル別の取り組み方について
上級者では、エクスターナルフォーカスのほうがターゲットとのズレの距離が短く、よい結果となり、アベレージゴルファーではインターナルフォーカスの方が良い結果だったのです。
「弾道のイメージをしっかり持って」と言われたかと思えば、「手首の角度をキープして」などと動きのテーマを指示されたことがあるゴルファーは多いのではないでしょうか。弾道の意識を強めれば、動きの意識は持ちにくくなりますし、動きの意識を強めれば、弾道の意識は持ちにくくなります。
そこで、2003年に発表された「注意の向け方による結果はゴルファーのスキルによって左右される」という論文をもとに意識の持ちようについて述べられています。
- インターナルフォーカス(内部焦点):スイングフォームに集中し、距離に応じてスイングの力量調整に意識を集中させる
- エクスターナルフォーカス(外部焦点):可能な限りそれぞれのターゲットの近くにボールを打つことに集中させる
例えばピンまで20ヤードのアプローチをする場合、「あそこまでの距離を打つにはこのぐらいのスイングの大きさで、しっかり当てるためにゆっくりとスイングする」などのように、自分自身に意識を向けてショットすることをインターナルフォーカス、「あそこに寄せるためにはあのあたりにキャリーして、こういう感じでボールが転がって止まる」などのように、理想のイメージを大きく膨らませてショットすることをインターナルフォーカス、と言います。
初中級者は前者の状態がより良い結果となり、プロや上級者は後者がより良い結果となりやすいのではないか、という部分について述べられています。
世界のスポーツ科学が証明する ゴルフ 新 上達法則 目次
- Swing Evidence #1~6
- Putting Evidence #1~3
- 第1章 あなたの頭に巣くう誤解の数々を解き明かすスイングのエビデンスとその活用法 Subject #1~9
- 第2章 ゴルフ界にはびこる思い込みをくつがえすパッティングのエビデンスとその活用法 Subject #1~9
鈴木タケル 一川大輔 著「ゴルフ 新 上達法則」
参考価格:1,078円(税込)