ゴルフスイングを語る時に感覚表現がはびこっているゴルフ界に一石を投じる書籍の紹介です。科学的に物理的にジェイコブス3Dを基に「理想的なゴルフスイング」に解説しています。この書籍のポイントになるのがキネティクスとキネマティックスです。
クラブにどのような力を与えるとクラブがどう動くのかを解明する運動力学がキネティクスです。そして、スイングした時の身体各部の運動連鎖、運動学のことがキネマティックスです。キネティクスは体の内部で起こっていること、キネマティックスは表面に表れる動き、とも言えるでしょう。
ゴルファーの多くは感覚に頼って練習に取り組んでおり、キネティクス的観点からも、キネマティックス的観点からも自分のスイングに対して正しいアプローチできていません。また、スマホなどでスイングを撮影しながら練習している人は、キネマティックス的観点で練習していると言えますが、表面のことだけを意識しても得たい結果を得ることは難しいでしょう。
そこでキネティクスの世界を知ることができると、キネマティックス的観点の取り組みがより良いものになります。
著者の松本協氏は30年余り金融マンで活躍していた元アマチュアゴルファーです。自身のゴルフ上達や、悩み解消に向けて研究を重なるうちにジェイコブス3Dゴルフというアメリカのゴルフサイエンス研究機関のメソッドに出会い、現地へ出向き指導を直談判して依頼するなどしていくうちに、抱えていた様々な疑問が解消された経験をしています。松本氏の略歴は下記の通りです。
松本協氏 略歴
- 米ジェイコブス3Dゴルフのアドバイザリーメンバー兼オフィシャル日本アンバサダー
- USGTF ティーチングプロフェッショナル
- TPI Certified
三十年弱に渡り主に欧州を拠点に国際金融マンとして活躍、一方でパーシモンクラブを手に英国を中心にゴルフに興じる。十年余の在英時代はゴルフクラブをほとんど新調せず、2007年日本へ帰国すると最新のドライバーが全く打てなかったため、旧来打法からの決別を誓い様々なゴルフコーチの指導法を研究。一方でゴルフサイエンスの研究に勤しみ、それが高じて米ゴルフサイエンス研究機関であるジェイコブス3Dゴルフからアジア人初のアドバイザリーメンバー兼オフィシャル日本アンバサダーとして認定を受ける。その後ティーチングプロ資格を得たのをきっかけにゴルフリサーチャーに転身。2019年夏ジェイコブス3Dジャパンの拠点を大箱根CCのMitsuhashi Golf Academy内に開設。
書籍の中の、ゴルフの難しさやつらさを乗り越えて1つの大きな壁を乗り越えた著者自身の言葉の数々は必見です。これまでの日本では誰もが言語化してこなかった(できなかった)領域のことが書かれています。
ゴルフクラブは先端に重量が偏っていたり、クラブヘッドがシャフトの片側にのみついていたりと、偏重心設計です。そのゴルフクラブを操作する上で、両肘から先、つまり、両腕の前腕とクラブを物理学でとらえる重要性を説いています。
疑問点として挙げられるのは、どのようにスイングすれば良いか、が分からないという点です。「理想的なグリップへの力のかけ方はこうだ」「USPGAツアーの選手はこのようにスイングしている」「日本の下部ツアーの選手はこういう要素が足りない」ということは書かれていますが、では一般のアマチュアゴルファーがどういうイメージでスイングするべきか、という部分についてはあまり言及していません。「クラブをグリップエンド方向に引き続けて前腕を回旋させる」ということに集約させています。
USPGAツアーの選手がそのようなスイングをしているからといって、そのようなイメージでスイングをしていないケースがほとんどでしょう。キネティクスの観点でグリップを引き続けているのかもしれませんが、引き続けているUSPGAツアーの選手が、イメージや意識を持って、引き続けているかは不明です。
しかし、そのようなな点があるものの、効率良くボールにエネルギーを伝えるためにはスイング中、ゴルフクラブをグリップエンド方向に引き続けることが重要だということをジェイコブス3Dの観点から徹底的に説いているこの書籍は一読の価値ありです。
多くのゴルファーには聞きなれない物理用語が多く出てきて、理解するのに時間を有する箇所もあります。下記目次を見ても難しい用語が出てくる書籍だということは分かると思います。しかし、ゴルフスイングを理解し、正しい取り組みをするためには知っておきたい内容が盛りだくさんの良書です。
以下の日本のゴルフ理論に対する疑問の言葉を聞いても、得たゴルフ理論に対する熱さを感じ取ることができます。
アメリカやヨーロッパのゴルフ界ではご当地のPGAが中核となり、ゴルフアカデミズムの啓発とゴルフの原理原則に関する正確な情報のシェアリングにつとめている。それをベースに現場での指導法は各レッスンプロに一任されるため、メソッドは多彩でもよしとされている。
日本の場合、残念ながら技術面を統べるPGAにはアカデミズムが見られない。いまだに何十年も大きな改訂がなされず4版も同じ内容で刷り続けられた指導教本と丸暗記を拠り所としている。その影響もあって、科学的根拠を提示しないキャッチーな感覚表現で集客する有名コーチを頂点とする徒弟制度のようなピラミッドさえ存在する。これではグローバルスタンダードから隔絶され、中国や韓国に置いていかれても致し方ないだろう。
第1章 ゴルフはなぜ難しいのか
- 迷走し続ける日本のアマチュアゴルファー
- ゴルフ力学への目覚めとマイケル・ジェイコブスとの出逢い
- ゴルフサイエンスを理解するべく物理と数学をやり直す
第2章 キネティクス解明への挑戦
- USGAのゴルフ力学解明への不断の努力
- アマチュアは一流プロのトップやインパクトを目指すべきか?
- スイング作りはクラブの挙動からアプローチするべき
- ニュートン力学に支配されるゴルフクラブ
- ゴルフの歴史におけるジェイコブス3Dの最大の貢献
- クラブにエネルギーをあたえる唯一のポイント「Hub」
第3章 ゴルフクラブの偏重心特性と人がクラブに与えるもの
- 偏重心のゴルフクラブ
- ゴルフスイングの本質はクラブの重心を管理すること
- 重心の管理=重心を引き続けること
- グリップに3次元のエネルギーを与えクラブの重心をコントロールする
- フォース(Force)
- ローテーション(Rotation)
- トルク(Torque)
第4章 ジェイコブス3Dによるスイング解析
- フォースとトルクを管理してエネルギーを作り上げる
- 両ヒジから先を物理学でとらえる
- ショートサムでクラブを握る
- テークバックの力学的考察
- 回転運動を演出するネガティブγフォース
- P2~P3はほとんどネガティブγフォースが支配
- 切り返しの力学的考察
- ダウンスイングからインパクトの力学的考察
- スピネーションの必要性
- パッシブトルクについて
第5章 ゴルフスイングの本質と効率的スイング
- ニュートンの第二運動方程式はゴルフ力学の原点
- イナーシャの真相
- 曲率半径は飛距離の源泉
- プロとアマチュア、ハブパスの違い
- トータルワークにおけるフォースとトルクの関係
- トルクエネルギーを利用するシャローイングとその功罪
- 指紋のように存在するハブパス
- ビジネスゾーンの本質、逆らえない重力の存在
- ジェイコブス3Dで見た日米女子プロスイング
- スイングの理想はサラっと上げてドンと下ろす
松本協 著 ゴルフの力学 スイングは「クラブが主」「カラダが従」


参考価格:990円(税込)
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※ラインナップや無料体験については2020年7月12日時点の情報です。