2006年に公開された論文を紹介します。タイトルは「ゴルフスイング中の筋活動およびキネティクス:プロゴルファーの事例研究」です。
この研究は、谷原秀人選手が被験者となり、ドライバーショットを行ったときの、上肢、体幹、下肢の20 個の筋(左右10 個ずつ)の筋電図を記録し、そこからわかるものをまとめたものです。
また、三次元動作分析によって重心の位置と速度を求めるとともに、左右の足に及ぼされる床反力を記録。それらも含めて、‟理想のゴルフスイングの一例”を示しており、ゴルフスイングの基準とするべきものが見えてくる内容となっています。
被験者が一人、ということがマイナス要素となりますが、ツアー選手、それもすでにトッププロとして活躍していた谷原選手のデータですから、説得力に欠けることはありません。
さらに、平均スコア90程度のアマチュアゴルファー(Jリーガー)とのデータ比較もあり、興味深い内容となっています。
- 抄録
- 緒言
- 方法
・筋電図
・動作分析
・床反力 - 結果
・筋電図
・動作分析及び床反力 - 考察
・上肢と体幹部の筋群の活動について
・下肢の筋群の活動について
プロゴルファー(プロ)のパフォーマンスの決定因子について明らかにする目的で、トーナメントプロ1名を対象として事例研究を行った。ドライバーを用いた打球を行ったときの筋電図を上肢、体幹、下肢の20 個の筋(左右
10 個ずつ)より表面電極によって記録した。
計測について
筋電図の導出部位
上肢
- 浅指屈筋(左右)
- 上腕二頭筋(左右)
- 上腕三頭筋(左右)
体幹
- 三角筋(左右)
- 大胸筋(左右)
- 外腹斜筋(左右)
- 右広背筋(左右)
下肢
- 外側広筋(左右)
- 大腿二頭筋(左右)
- 腓腹筋(左右)
左と右それぞれ、10か所の部位。計20か所の部位の筋電図を導出。
計測結果の図
試技中の筋電図
床反力ベクトル線図
アドレスで左右均等加重だった状態がトップで右足主体の加重となり、インパクでは主として左足、フィニッシュではほぼ左足加重となっていることがわかる。インパクトでは左足の床反力がほぼ最大になっていた。左足の鉛直方向の加重はインパクト前に最下点を迎えた後、一気に増加し、インパクト直後に最大値(1000N)を示した。右足の加重はダウンスイング開始直後に最大値をとった後、インパクトに向かって減少してゆき、インパクト後にさらに減少して床反力がゼロになった。
床反力の各成分(上)、重心変位(中)、重心速度(下)
ダウンスイング直後に右足の鉛直方向床反力が増加する時点では右の外側広筋および大腿二頭筋の活動が高まり、その後急激に左足の加重が増加してインパクトを迎えるときに左側の両筋の活動が高まっていた。重心の変位においても、トップからインパクトの間に右側から左側へのシフトが観察された。右から左へのシフトはボールの進行方向に対応するが、この方向の重心の並進速度はインパクト直前に最大となり、インパクト時までほぼ維持され、インパクト後に低下していた。鉛直方向の重心速度についてみると、上向きの速度をもった状態でインパクトを迎えていた。
研究結果のまとめ
- 上半身では、体幹、肩、腕、手の筋群がインパクトに合わせて集中した活動を行っていた。このことは、スティフネスの増加や遠位のセグメントの速度増加を通じてヘッドスピードを高める効果をもっているものと推察される。
- 下半身では、インパクト前の右足加重によって身体重心にボール進行方向の速度を与えるとともに、インパクトに合わせて左脚が反動ジャンプに類する動作を行っていた。これらのことがヘッドスピードを高めている可能性がある。
スティフネス:バネとしたときの硬さ。
セグメント:区分けされたものの一部。